「完璧に見える理論ほど、見直されない。」
これは現代のビジネスやAI時代の戦略にも通じる警句です。
2世紀の天文学者、クラウディオス・プトレマイオスは、観測精度に基づいて極めて緻密な天体モデルを構築しました。
しかし、その“正確すぎる理論”が、かえって真実の発見を妨げていたとしたら――?
今回は、プトレマイオスの理論がもたらした功績と限界、そしてそこから得られるビジネス的な示唆を紹介します。
クラウディオス・プトレマイオス(2世紀・アレクサンドリア)は、**地球中心の宇宙モデル(天動説)**を最も精緻に理論化した天文学者です。
彼の著作『アルマゲスト』は、惑星の運行を高精度に予測する数学モデルを提供し、1500年以上にわたってヨーロッパとイスラム世界の標準理論として用いられました。
当時、惑星は空を行き来する際、ときに「逆行」して見えるなど、複雑な動きをしていました。
プトレマイオスはこれを説明するため、以下の構造を考案しました。
この理論によって、観測データとほぼ完璧に一致する予測が可能となりました。
プトレマイオスの理論は、確かに驚くほど精密です。
観測結果を正確に再現するための補正が複雑に重ねられ、実用的にも高く評価されました。
しかし、それはあくまで**「見かけの動きを説明するための数学的な帳尻合わせ」**であり、
📌 現代で言えば、“KPIの数字合わせはできるが、ビジネスの本質を問い直すことはしていない”状態に似ています。
偉大な点 | 限界 |
---|---|
観測データと数学モデルを一致させた | 前提(地球中心)を一切疑わなかった |
日食・月食・惑星の位置などの高精度予測が可能 | 宇宙の“構造”ではなく“見た目”を説明していた |
1500年にわたり標準理論として機能 | 結果として新発見を妨げるパラダイムの固定化 |
これは、データ活用やAIモデルにも共通する問題です。
いくら精度が高くても、間違った世界観に立脚していれば、本質に近づくことはできません。
のちに登場するケプラーは、「円ではなく楕円」という大胆な仮説で、惑星の真の軌道を明らかにします。
この発見のためには、プトレマイオス的な帳尻合わせを捨てる勇気が必要でした。
しかし逆に言えば、帳尻合わせのモデルが極限まで精緻化されていたからこそ、ケプラーの発見は輝きを放つのです。
プトレマイオスの業績は、「緻密なモデル構築の限界を超えるとはどういうことか」を、私たちに静かに問いかけているのです。