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ビジネス版ループエンジニアリングの構築――成果物を作るのではなくハーネスとループを設計せよ

前回の記事で、当社がAIエージェント「Claude Cowork」に任せている約30件の実務を棚卸ししました。読んでいただいた方から返ってきそうな質問は、おそらくこれです。「そんなに任せて、大丈夫なの?」

答えは、「大丈夫にするための仕組みがあるから任せられる」です。今回はその裏側——AIを賢いまま放し飼いにするのではなく、運用で強くしていく仕組みの話をします。

ループエンジニアリングとは——指示の工夫から、運用サイクルの設計へ

AI活用の工夫には段階があります。最初は「指示文の書き方」の工夫でした。うまい聞き方をすれば、いい答えが返ってくる、という段階です。次に来たのが、AIの周囲の「足場」づくりです。AIがどのツールを使えるか、何をしてよくて何をしてはいけないか、過去の経緯をどう覚えておくか——AIが働く環境そのものを設計する考え方で、「ハーネスエンジニアリング」などと呼ばれます。

そして最近目にするようになったのが「ループエンジニアリング」という言葉です。まだ新しい言葉で定義は固まっていませんが、当社ではこう捉えています。AIの実行結果を記録し、人間がレビューし、ルールそのものを改訂して次の実行に反映する——この改善サイクル(ループ)を設計して回し続けること

大事なのは、これが「賢いAIを選ぶ話」ではないことです。AIは必ずどこかで失敗します。失敗をゼロにするのではなく、失敗するたびに仕組みの側が学習して強くなる状態を作る。それがループエンジニアリングの狙いです。

土台となるハーネス——AIの周りに置く4つの構造物

ループを回す前に、土台が要ります。当社の場合、プログラムを書いたわけではなく、文書と運用ルールで4つの構造物を整備しました。「ビジネス版」と呼んでいるのはこのためです。

1つめはルールブックの正本を1つに決めること。フォルダの使い方、ファイルの命名、成果物の出力先、やってはいけないことまでを1つの文書に集約し、AIは毎回これを読んでから作業を始めます。同じルールを複数の場所に書くことは禁止です(正本が増えると、改訂が追いつかなくなります)。

2つめは3段階の承認フロー。いきなり成果物を作らせず、方針の複数案→構成案→作成、と2回止めて人間が承認します。作ってから直すより、作る前に方向を合わせるほうが速くて安全です。

3つめはリスク階層ゲート。AIの操作を「読み取り・集計」「社内ドラフトの作成」「共有先への書き込み」「対外送信・支払い・削除」の4段階に分け、下2つは自動、上に行くほど人間の承認を必須にしています。ポイントは、AIの自信ではなく行動のリスクで止める場所を決めておくことです。

4つめは基盤です。案件ごとに整理されたフォルダ構造、案件をまたぐ知見の索引、繰り返し作業の手順書パッケージ化、そしてAI自身が残す業務メモ。これらがあるから、AIは毎回ゼロからではなく、文脈を引き継いで働けます。

ループを回す——記録・レビュー・改訂のサイクル

土台の上で、サイクルを回します。まず記録。AIは作業を終えるたびに、日時・内容・使ったモデル・成果物を利用ログへ1行残します。人間が書くのではなく、AIに書かせるのがコツです。

次にレビュー。週に1回、そのログをAI自身と一緒に振り返ります。「この作業はもっと軽いモデルで十分だったのでは」「記録漏れはないか」「同じ失敗が繰り返されていないか」。そして改訂。レビューで決めたことは、必ずルールブックの正本に反映します。当社のルールブックには変更履歴が付いていて、この2か月ほどで20回以上の改訂が積み上がりました。

実際にあった例を2つだけ紹介します。1つは、AIにブラウザ操作をさせると作業用タブの痕跡がブラウザに蓄積していくことが分かった件。原因を特定し、「作業終了時に自分が開いたタブをすべて閉じる。定期実行のタスクではブラウザ操作を使わない」というルールを追加して、再発は止まりました。もう1つは、AIが提示する選択ボタンが、環境によって画面に表示されないことがあった件。ボタン式のUIをやめて、本文に番号付きで選択肢を書き、番号で回答してもらう方式に全面変更しました。

どちらも流れは同じです。失敗→原因特定→ルール化→再発防止。モデル自体は何も賢くなっていませんが、会社の運用は確実に賢くなっています。

なお、毎朝のブリーフィング生成や週次のデータ同期、四半期の棚卸しといった定期実行もループの一部です。回すべきサイクルは人間の記憶に頼らず、スケジュールに載せてしまうのが確実です。

自社で作るなら——最小構成の4ステップ

同じことは、大がかりな準備なしに始められます。手順は4つです。第1に、ルールの正本を1つ決める。AIへの指示や禁止事項を書く場所を1か所に定めます。最初は10行でかまいません。第2に、AIにログを残させる。「作業が終わったら日時と内容を1行記録して」と指示するだけです。第3に、定例レビューの時間を置く。週1回15分、ログを見ながらAIと一緒に振り返ります。第4に、改訂を必ず正本に反映する。チャットの中で注意するだけでは、次の会話では忘れられています。正本に書けば、以後のすべての作業に効きます。

最初から完璧なルールを作る必要はありません。週1回のレビューで扱うのは、まず「今週いちばん困った1件」だけで十分です。その1件をルールに変えるだけでも、翌週のAIは確実に違う動きをします。小さく始めて、改訂で育てる。ループエンジニアリングの本質は、この「育てる」にあります。

まとめ——モデルは借り物、ループは資産

AIモデルの賢さは、料金を払えば誰でも使える「借り物」です。同じモデルは競合他社も使えます。一方、自社の業務に合わせて改訂され続けるルールブックと運用ループは、自社にしか作れず、使うほど賢くなっていく資産です。

AI導入を「どのAIを選ぶか」で考えているなら、一度「どう回すか」に視点を移してみることをおすすめします。前回の棚卸し記事とあわせて、仕組みづくりの参考になれば幸いです。

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